愛知県愛西市にて、日本最古の年記銘の獅子頭について取材

愛知県愛西市の年記銘付きの獅子頭で最古のものを取材させていただいた。なぜ最古のものが、愛知県にあるのかという謎を解き明かそうという試みだった。以下、オマツリジャパンで執筆させていただいた記事を一部転載させていただく。

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(以下、2021年3月5日に行った市役所インタビューや文献調査の内容等)

日本最古の獅子頭。どこにあるのかご存じだった方はいるだろうか?実は愛知県愛西市の日置(へき)八幡宮という場所に保管されている。これは「年記銘がある」という条件付きではあるが、記録が辿れる獅子頭の中では最古ということのようだ。なぜこの場所にこんなにも古い獅子頭が存在するのか、そのルーツを探るため現地を訪れてきた。コロナ禍で獅子舞が見られない中、獅子頭に着目してその知られざる歴史をお届けしたい。

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この地域では現在、獅子頭を作っている方は少なく、専業でされている方も聞いたことがないそう。仏像を彫る方はいるようで、獅子頭を彫れるとしたらこのような方々かもしれない。また、獅子頭に使うような木材(ヒノキやエノキなど)が豊富な土地ではない一方で、物や情報が行き交う流通拠点だった歴史があり、川が多いという特徴がある。例えば川の上流から木材を調達して作ったとか、どこかから獅子頭のデザインが持ち込まれたとかは十分考えられる。ただ、獅子頭の由来に関する記録はほとんど残っていないそうだ。江戸時代後期に編纂された『尾張名所図会』には「同(八月)十六日、神賓蟲拂ありて、古き弓矢・獅子頭及び經巻等を諸人に見せしむ」とあり、この獅子頭が古くから社宝として伝えられていたことはわかっている。

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この獅子頭の形態は上あごと下あごに分かれ、下あご部分はのちに修復された。上あごは建長四(1252)年製作で、下あごが享徳三(1454)年製作である。この神社では獅子舞をしたという記録はなく、現在も獅子舞を実施していない。獅子頭のみが神社の敷地内に保管されていた。県道の敷設に伴い、神社の移転をする時に整理をしていた際に出てきたとのこと。その後、元興寺文化財研究所に搬入され、獅子頭に「建長四年壬子八月」の文字が刻まれているのが発見されたようだ。これで製作年が判明し、2007年1月10日に愛西市の指定文化財に指定された。

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蔭山誠一著『愛知県日置八幡宮所蔵木造獅子頭考』(2008年)には、獅子頭の形態の変遷から日本全国の獅子頭のルーツを推測した記述がある。獅子頭のデザインに地域的傾向はあるもののモザイク状に分布しており、地方の神官や職人などが流入してきたものを元にして各所で獅子頭を製作したと考えられるようだ。中部地方や東海地方に分布する中世の獅子頭のデザインには、京都を起点として様々な類似性が見られるとのこと。愛知県愛西市日置八幡宮に関しては、鎌倉時代から室町時代前半まで源氏と縁の深い左女(さめ)若宮八幡社領であった点に注目。京都にある若宮八幡宮を起点に、八幡信仰興隆を背景として製作された獅子頭なのではないかとのこと。日本全国の獅子頭の分布から愛西市獅子頭について考えるのもとても興味深い。

 

▼上記内容はこちらのオマツリジャパンのサイトにて執筆させていただきました。

omatsurijapan.com

 

▼愛知といえば寄木型の獅子頭。石川県加賀市東山田町との関連性が考えられるが、今回の取材から明らかにすることはできなかった。もし繋がりがあるとすれば面白い。

ina-tabi.hatenablog.com