【2024年8月】石川県加賀市 獅子舞取材 お盆明けの獅子舞ラッシュ、小さく細かく広く根付く獅子舞文化

静岡から移動して、次の朝に石川県加賀市にたどり着いた。旅する延長上で加賀市を訪れて感じるのは、特に獅子舞文化が小さく細かく広く根付いており、それが地域性であり面白さのように思う。この地域では3日間、2024年8月16〜18日の日程で滞在した。加賀市ではお盆すぎのこの時期が、非常に多くの獅子舞が開催されるので、この機会に動画を撮影してアーカイブを進めようという狙いがある。では加賀市での滞在について振り返っていこう。

8月16日

錦城中学校での獅子舞の授業(11時〜)

「加賀を活性化する」というお題で行われた中学校の授業で、100名以上の中で4名の学生が「獅子舞」を深掘りのテーマに選んでくれた。そのうち3名が今回、夏休みにも関わらず、学校に集まってくれた。僕の方で30分の授業を行い、そこから質疑応答やディスカッションの流れとなった。みんな獅子舞に興味を持っているけど、さて何をしようという戸惑いも見られた。それでも授業の終了後に加賀市の獅子舞取材についていきたいと言って、実際についてきてくれた子もいて、前向きでとても嬉しかった。

宮地町獅子舞取材(13時半〜)

宮地町といえば若い年齢層の担い手がとても頑張っている印象だ。以前取材した時に比べて青年団員が増えており、現在は11名になっていた。毎年高校生の家に勧誘に行くなど、担い手確保は徹底しているという。地域の老人ホームにも訪問し、獅子舞が地域を勇気づけているような光景も見られた。太鼓などを運ぶ台車には「轟丸(とどろきまる)」という名前が付けられており、祭り道具に愛着が湧いてくるようなネーミングでそれが面白かった。

山代温泉20区獅子舞取材(15時〜)

市之瀬用水に関わる町の人々が集結する神事の場として、市之瀬神社がある。この神事が終了後に行われるのが山代温泉20区の獅子舞だ。20区だけは「新村」と呼ばれていて、山代温泉とは異なるコミュニティで獅子舞は存在する。20区の担い手は山代温泉の獅子舞をすることはあるが、その逆に山代温泉の担い手が20区の担い手をすることは珍しいという関係性もまた興味深い。実際に演舞を拝見して、太鼓の音が南郷町にそっくりなのが驚いた。ルーツを辿ればどこかで出合うだろう。一方で舞いは大聖寺の多くの町や塩屋町に近いようにも思えた。山代温泉の獅子舞とは全く違う農村の獅子舞の系統である。

上野町獅子舞取材(16時〜)

山代温泉20区と同じ形態の獅子舞を今に伝えており、実際にその舞いを拝見すると確かに似ていると思った。太鼓と獅子の構成、獅子舞は派手な動きをするというよりは地面近くで這っている感じだ。近年は舞い方が少しずつ変わりつつあるというお話もあった。最年少の中学1年生がいざ太鼓を叩き始めるとめちゃくちゃ上手だったのが印象的だった。太鼓は演舞の全体を司る役割なので演舞のリズム作っていく要であり年配者がやるものと思い込んでいたが、その常識が覆されてギャップもあってよかった。

8月17日

中島町獅子舞取材(6時〜)

朝5時から準備が始まり、朝6時から舞い始めるという非常に朝が早い町である。獅子舞の音で地域の人は目覚めるのだろう、獅子舞好きにとっては素晴らしい1日の始まりである。プレス、ちぎり、ロング、薙刀という4つ演目のうち、最初の30分程度の時間の中で、最初の3つを拝見することができた。やはり中島町の獅子舞はすごい!徹底的な武闘派の獅子舞で、動きの緩急がしっかりしている。何度見てもここだけの舞いだ。相当な創作力を持つご先祖の担い手がおられたのだろう。

桑原町獅子舞取材(9時半〜)

桑原公民館での舞いを拝見した。獅子舞がゆらゆらしている姿が特徴的。なんだか可愛らしく見えてくる。獅子と対峙する棒振りは紅白のデザインが施されており、以前は竹の棒を使っていたのを近年は新しく作り直したらしい。青年団二人の状態から、先輩方も取り込みそして獅子舞をつないでいこうという気持ちで、今回獅子舞の実施に漕ぎ着けたようだ。地域の多世代で獅子舞を次の世代に繋ごうという想いが伝わってきた。

上河崎町獅子舞取材(16時〜)

16時から神社にて。町随一の舞いの名手に、獅子舞を披露していただいた。ゆっくり動くところ、素早く動くところがしっかり使い分けられており、蛇のようなグネグネとした躍動感がある獅子舞だと感じた。演舞の終了後、神社境内の屋台で肉やビール、かき氷などをたくさんいただいた。夕方からすでに屋台が賑わいだしており活気を感じた。

合河獅子舞フェスティバル(19時〜)

合河町に加賀市各地の獅子舞団体が集結。19時から1時間ほどの時間の中で、中島町南郷町河南町、動橋町、合河町毛合・川尻の演舞が次々と行われた。近年は加賀市青年団が一堂に会して一致団結していこうという流れが加速する中で、今回の獅子舞の集結はそれを象徴するイベントのひとつだったように思う。青年団らしく、マイクパフォーマンスで盛り上げてから獅子舞を演舞する町があったり、動橋町が演舞している最中に南郷町が飛び入りで参加したりと、ノリの良さを感じた。また、観客とのコミュニケーションを図る場面も多く、獅子舞が観客の座るブルーシートのところに入ってきたり、お客さんの頭を噛んだりする場面も多かった。青年団の団結を考えた時に、真っ先に獅子舞が浮かんでくるのは、やはり加賀市ならではというか、地域性だと思う。あと農村部の夜にライトテカテカで実施していたもんだから、虫がたくさん飛んできた。これは都会ではなかなか見られない光景なので印象深かった。

8月18日

森町の獅子舞(9時〜)

森町の白山神社で勇壮で非常に格好良い舞いを拝見することができた。獅子舞の中に入るのは3人と少ないのに、舞い自体は加賀獅子の百足形式に近いような棒振りが登場する。勇壮な棒振りは3つの演目があり、棒、薙刀、剣を使いこなす。最終演目にはでんぐり返しをするような所作もあり、これは中島町の獅子舞に伝わっている。これらは全て加賀獅子が源流の所作であろう。

二ツ屋町の獅子舞(10時〜)

こちらも白山神社の獅子舞だ。森町からはもうすぐ見える場所にあるのに、お互いは祭りが行われていることを知らないようだ。この距離で祭りをお互い知らないというのは大変意外だった。それほどに町同士の交流はないのだ。二ツ屋町の獅子舞といえば、蚊帳のデザインが矢の的のようなデザインをしており、白山信仰が関わっているということを以前聞いていた。実際に二ツ屋町の獅子舞を拝見すると、派手な動きこそないものの、ひたすら地面に近いところをスーッと動いていくような感じで、担い手の負担は相当なものだろうと感じた。その分、気合いも感じられて格好良かった。高齢化が進んでいるので、担い手の確保は急務である。

今回の加賀市の獅子舞訪問を終えて

多種多様な獅子舞がたくさん見られて面白かった。加賀市の多くの町は地域の内側で、継承しようと奮闘している。外に見せるという意識は少ないのだろう。法被を着ないで実施している地域も多かった。逆に言えば素朴な形の獅子舞が今でも受け継がれていて、地元の人しか知らないことばかりである。地域との繋がりがあってこそ、今回取材できるありがたさを再確認した。