日本三大祭・祇園祭と天神祭にて、祭りと獅子舞の源流に触れた

最近は日本全国の祭りの全体像を描けるようになりたいと思っている。だから今回、日本三大祭りの一翼を担う、祇園祭天神祭を訪れたのは必然的だったかもしれない。2023年7月24日にこの2つの祭りをはしごした。行き帰りは夜行バスなので、弾丸の取材だったが、日本の祭りの根幹を担う、日本人の心の根底に流れる祭り精神のようなものに、少し触れることができたような気がしている。

7月24日午前 京都 祇園祭

京都は都市問題を多く孕む土地であった。祇園祭は動く美術館であり、その布が世界的に貴重な布でペルシャやインドから取り寄せられているなど、さまざまな言われ方をすることが多い。少なからず日本にとどまらない、世界的な祭りとして変貌を遂げたのが祇園祭である。

もともと京都盆地は人が集住する場所ではなかった。平安京が作られる前までは、低湿地帯であり、沼や水田が広がっており、人間が住んでいたのはその周縁部の山裾のみだったはずだ。それがいきなり低湿地帯の中央部に平安京が作られ、人が集住することで、様々な都市問題が発生した。それがとりわけ夏の暑い時期に、食中毒、赤痢、疫痢、腸チフスなどの伝染病の発生につながったのだ。また、当時は排水が行われずに井戸で飲み水を共有したり、糞尿や生ゴミの処理が不十分であり、それが伝染病の発生に拍車をかけた。それに加え、台風や洪水などの水害が発生して、それも追い風となり、伝染病が深刻化した。

これらの原因を当時の人々は怨念に求めた。政治的な有力者が失意のままに死に、恨みを抱いたままに死んだものの霊魂が不特定多数の人々に災厄をもたらすという考え方である。これが祇園祭の発生の根本になった考え方である。祇園御霊会・祇園会(ぎおんえ)と称し,貞観11(869)年,全国的に疫病が流行した時,その退散を祈願して長さ2丈程の矛(ほこ)を,日本66カ国の数にちなみ66本を立て,牛頭天王(ごずてんのう)を祀ったのが始まりと言われている。最初は無論神事として始まったものだが、徐々に豪華絢爛に変化して、見せる祭りへと変化を遂げることとなる。

さて、祇園祭で見られる獅子舞についてもご紹介しておこう。祇園獅子舞は昭和の頃に復活したものとされ、現在祇園獅子舞研究会によって継承されている。基本的には男女関係なくどう膜の中に入り、演じるのは子どもである。子どもの獅子は簡略化しやすいというのが通例であるが、演舞内容がけっこう見応えがあって、素晴らしい。緑と赤の獅子2頭1組で演舞を行い、この配色からして、福岡県の祓い獅子についいじるところがあるように思うが、どう見てもメス(赤)とオス(緑)であろう。

また、六斎念仏にも獅子舞は登場する。六斎念仏は死者の供養のために作られたもので、念仏は自己の斎戒(さいかい)だけでなく、供養のために唱えるようになったことから始まった芸能である。土蜘蛛は渡来人が原住民を制圧する話を芸能化したもので、もともと獅子舞がこれに登場するようになったのは伊勢大神楽の流行以後のことである。伊勢信仰の布教に訪れた伊勢大神楽の芸能集団は近世以降、京都の町や周辺の農村を巡回して、娯楽のない人々の大人気をさらったと言われている。天明7(1787)年にはすでに、『拾遺郡名所図解』に町廻りの六斎念仏の図があり、そこには二人立ちの獅子とスリササラを奏する道化役が描かれている。六斎念仏は当時、壬生狂言などで演じられていた「土蜘蛛」の演目に獅子を取り入れて上演した点が新しかったと言われる。実際に拝見してみて、糸をぶわっと浴びせかけられるようなシーンなどが非常にダイナミックで印象的だった。そして、技の難易度が高く、アクロバティックな獅子だとも感じた。

7月24日午後 大阪 天神祭

大阪天満宮天神祭御霊信仰によって始まったお祭りという点で、祇園獅子舞との共通点がある。大阪の人情味あふれる街のお祭りだ。御霊を鎮めるお祭りで、御霊信仰という点では実は祇園祭と似ているのだが、祭りの内容は全く違う。船渡御や花火などが有名であり、花笠や山鉾のような堂々たる練り歩きは存在しない。一緒に行列にくっついて歩くような親しみやすさを感じる行列がある。500人の獅子舞行列などが際たる例であり、参加型であることが見どころだ。

このお祭りに登場する獅子舞も、これまた面白い。もともとは約300年前に寺子屋から始まった講であり、そこに伊勢大神楽のような芸能が取り込まれて今日に至る。現在800人もの人々が所属しているという。だからこんなに盛り上がるのだ。天満宮に奉仕しながらも踊り手・芸能者として活動する若い人たちの活気には圧倒される。獅子舞の他にも、傘踊り、竹製楽器を鳴らして踊る「四つ竹」「梵天」なども行うのだという。天神祭の講は全部で25あるらしく(2021年時点 産経ニュース参照)、そのうちの1つである。

実際に祭りの日には行列を作った一斉演舞が行われたり、天満宮の中に講のブースが設けられ500円を払うとお祓いしてもらえたり、さまざまなシーンで獅子舞を見かけた。金色の獅子頭に緑色の胴体、そしてクルっと丸まった紙製の耳が特徴的である。所作としては、胴体をゆさゆさと揺らすシーンが多用されているように思えた。大混雑で少ししか見られなかったのは心残りなので、またどこかでしっかり鑑賞したい気持ちはある。