手作り大獅子の物語!静岡県島田市抜里にて、遠方の獅子舞との意外な共通性

楽しさを追求する精神と助け合いがある、暖かい街。そのような印象が強い、静岡県島田市抜里という地域。三人組のアーティストユニット獅子の歯ブラシの活動で、この街に滞在した。ここではもともと獅子舞はないものと思っていたが、庭木の剪定をしている地域の方と雑談をしている時に、たまたま「倉庫に獅子舞があるよ」と言われて案内してもらって、獅子舞の話を聞く流れとなった。そこには獅子舞という芸能を考える上で、とても興味深いヒントが隠されていたように思う。

大獅子を軽トラックで運んでいただき、それを前にして、獅子舞を創作した米澤國雄さんにお話を伺うことができた。

赤い大獅子の始まり

抜里では抜里八幡神社を崇拝する祭礼行事を昔から営んできた。特に縁日になる10月16日(現在はその周辺の土日に変更)の秋の例大祭に備えて、手作りの「御所車(牛の造形物の運搬)」「竿灯」「神楽」などの出し物を披露してきた。米澤さんは日本の獅子舞・神楽に影響され、特に神楽に関してその創作を率先して実施してきた。

まず大獅子である。平成9年に静岡県周智郡春野町豊岡勝坂地区の「神楽の里」への訪問や、静岡県掛川市の「仁藤の大獅子」などを見学して、それを元に次のお正月に手作りの赤い大獅子を完成させ練り歩きが行われた。また、10月の縁日では、手作りの白い獅子頭を制作して、紅白の大獅子とダンボールの獅子とで、参拝者を温かく迎えるということもあった。この紅白の獅子頭は基本的に作りが同じだが、色の配色が違う。ただし白い獅子頭の方は鼻が出っ張り過ぎて不格好だったので、すぐにお焚き上げとなってしまった。現在は赤い大獅子のみが残されている。また、この赤い大獅子の口からダンボールの大きな手が出てくるという演出が行われることもあった。これはご祝儀をいただく意味で、手を出すということだった。ただその行為があからさますぎるということで、一回のみでそれ以降は行われなかった。ただご祝儀の額はかなり集まったようだ。

ダンボール獅子も舞い歩き

大獅子と同時に、26の手作りダンボー獅子頭を制作。舞い歩きも行ったようだ。これは「全員が主役」が原則で、小中学生や大人といった多様な属性の地域の方々が手作り獅子頭をかぶって舞い歩くというものだった。この獅子頭は規制品ではなく、全て手作りだ。この愛情がこもった獅子頭は、舞わなくなった今でも各家庭で大事にされている。

また、結婚式で遠方まで舞に行くこともあり、子孫繁栄の舞いを実施することもあった。ここでは「新郎名」「新婦名」「第三者名」の3頭の獅子とひょっとこが登場したようである。3頭の獅子頭を正面、右、左を3回繰り返す。また獅子頭を前後に振って、「ビリビリ」を行ったという。また、この時の結婚式の時の内容をアレンジして、「百賀の祝い」で「長寿の舞」を披露するなど、単に祭礼行事だけで獅子舞を実施するのではなく、祝い事にたくさん呼ばれて獅子舞を実施してきたようだ。

大獅子の復活

これらのお話を伺ったのち、抜里に滞在していた美大の先生と大学生達と、この大獅子を30年ぶりに復活させようという演舞が行われた。掃除をして塗り直しをして、茶畑のど真ん中に移動。口をパクパクさせながら胴体を傘によって上下させて動きを出させ、練り歩きが行われた。獅子頭には中に入る人が1人、そして側面の木を持って支える人が2人、あとは胴体という構成だった。地域の人々が見守る中で、とても感動的な演舞となった。

雌獅子隠しから読み取る「獅子舞の普遍性」

ここからはヒアリングの振り返りと個人的な気づきである。最も驚いたのが米澤さんが創作された結婚式での獅子舞に、雌獅子隠しの演目があったことだ。夫婦和合の意味が込められており、最終的には嫁の取り合いに勝利したオスが結婚する夫婦和合の流れだそうである。これは獅子舞界隈では、関東の三匹獅子舞を取材する時によく登場する演目で、オス2頭がメス1頭を取り合うというものだ。朝霧が立ち込める中でオスがメスを探し当てて、最後は3頭仲良く帰っていくという物語である。これが合戦前に味方を鼓舞する武道的な文脈で導入されたという説もあり、これと似た演目が抜里にも見られた。米澤さん曰く「三匹獅子舞の話は全く知らなかった」とのこと。米澤さんが創作した獅子舞の演目が、偶然にも関東で類似の舞いが見られたということである。単なる地域間の芸能伝播に関わらず、人間が描く獅子舞像が根底で偶然にも一致をしたという奇跡は、獅子舞の普遍的で広域的な可能性と人間の根源に訴えかける何かを感じることができ、個人的にとても興味深い観点であった。

「楽しさと愛情」を感じる獅子舞

また、ダンボールの獅子頭も大獅子も地域の人は「神楽」と呼ぶことから、形態は「獅子神楽」であることは明白で、権九郎の獅子頭保有している。おそらく三重の伊勢大神楽の影響を強く受けた獅子舞という印象だ。ただし、基本的には伝統的な舞いを有せず、祭りの日は楽しく動こうということで、かっちりした所作が決まっていない。民謡を急に歌い出す獅子舞の担い手がいるくらいで、基本的に自由だ。楽しみながらこの獅子舞を継承しているという印象が強い。手作りの獅子頭を有しており、基本的に愛着を持って獅子舞を行なっている。だから、獅子舞を30年間行なっていなくても、各家庭に自分の獅子頭を保管している。これらのことを総合して考えると、獅子舞に対して愛情あふれる向き合い方をしているように思える。