那須塩原市で獅子舞の展示を見てきた

12月1日は那須塩原町の那須野が原博物館で獅子舞の特別展「舞い踊る伝承-那須地域の獅子舞・城鍬舞・念仏踊り-」が行われていたので、拝見してきた。

 

大迫力の展示内容

今回の展示は3年ほどかけて準備が進められたようで、かなり完成度が高いと感じた。本来であれば昨年の秋に行われる予定だったが、今回はコロナの関係で1年遅れの開催となったらしい。図録は200ページの大ボリュームで、写真や文章などから調査内容が綿密に行われていることがよくわかった。看板屋さんに頼んで製作したという巨大な写真がプリントされた掛け軸は、天井に近い部分はこんな風に展示すると迫力あるよな..ふむふむと学びになった。獅子頭などの祭り道具がずらりと並べられており、損保ジャパンか何かの保険も入っているようで、展示にどのような保険をかけるかなども館内の方に話を伺えて良かった。

 

那須塩原市の獅子舞の特徴

ひとまず、展示を拝見して感じた、那須地域の獅子舞の印象について触れておきたい。1998年の調査によると、栃木県内に63地域で獅子舞が継承されている。その中で、那須地域では16地区で獅子舞が伝承されており、県内では取り分け獅子舞が盛んな地域である。春と秋に五穀豊穣に感謝する獅子舞が行われ、ほとんどが風流系で神楽系のものはほぼ見られない。また、神社への奉納が主であり、家を一軒一軒回る形態はほとんど見られないことが特徴だ。獅子頭同士が喧嘩をするという風な考え方もあり、獅子頭が生きていて自然に近い存在だということを感じさせられた。

鹿の角を持った獅子頭が1つ見られるのは、北のしし踊りと南の三匹獅子舞の中間的存在を予感させる。しし踊りは鹿がモチーフである要素が強いが、三匹獅子舞はイノシシの分布と被るとも言われているので、その中間的存在とも言えるかもしれない。また、三匹獅子舞のそれぞれの呼び方が1番2番3番とか、左右とか様々な呼び方がある。左右は神様側から見て左右なので狛犬と同じで鳥居正面から見ると右が左に変換される。

また、獅子舞に似た芸能として、風流系の城鍬舞というものがある。起源は田植え踊りや田楽が元になっており、花笠が登場するなどの共通性があるものの、獅子は登場しないので獅子舞とは異なる。漢字違いで福島県に白鍬舞というものがあるものの、これは全国でも珍しい芸能だ。

 

獅子舞を次の世代に継承していく取り組み

年齢制限をもうけていた保存会が今では、それを撤廃して関わりたい人が関わるというやり方で獅子舞を継承しており、60代でも保存会に所属している地域もある。伝統にとらわれることなく、獅子舞を次の世代に繋いでいると感じた。

また、下厚崎の獅子舞は、高林の獅子舞、小島の獅子舞などは獅子舞休止のなかで、獅子頭の神社への奉納を欠かさず行っている。このように、獅子舞の奉納ができない中でも、獅子頭の奉納を継続して行うことで、地域に伝わる獅子を次の世代に伝えていくという動きも見られるのだ。小島の場合、集落20軒が獅子頭奉納と獅子舞道具の保管をそれぞれ持ち回りで担当するという。

2019年に大原間小学校では、児童が地域に積極的に関わることを目的として、獅子舞クラブが発足して、三本木の獅子舞との交流が実現。獅子舞クラブのメンバーは15名で17回の練習を行い、11月の学校解放「大原間オリンピック」で披露された。この活動は今後も継続が検討されており、三本木の獅子舞を受け継ぐ担い手の輩出が期待される。

百村の百堂念仏舞は2011年の東日本大震災の影響で奉納ができず、翌年も子供の減少により中止となった。このように、災害や疫病で一度祭りが途絶えるとその後に復活困難となる場合も多い。しかし、町民の「なくしたくない」という想いから、百村地区だけでなく、穴沢小学校の6年生が担い手になることで、再開が図られた。現在は小学校の統合により、高林小学校がそのあとを引き継ぎ、今に伝わっている。

また、祈りを強く持ち、継続に対するモチベーションとしているところもある。三本木の獅子舞では、奉納を中断した時期に伝染病に襲われたという言い伝えがあり、奉納を再開して今に至る。それゆえ、戦時中も男性たちが出征して不在のなかで、女性たちが獅子舞を演じたと言われ、途絶えさせてはいけないという強い気持ちのもとで受け継がれている。毎年7月に病魔退散の願いを込めて、獅子が集落の家を一軒ずつ回る風習がある。これは昔は当たり前だったが、現在では那須地域でここしか行っていない非常に珍しい風習である。また、演目数が22も存在しており、獅子が踊りながら声を発して歌うという栃木県内では珍しい踊り方が存在する。祭りの日程は現在、3月24日に近い日曜日と7月は土用の入り前後の日に集落を回ることとなっている。

 

このように、那須地域では獅子舞をどのように次の世代に伝えていくのかという点においては、様々な工夫があることを知ることができた。

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