【岐阜県郡上市】猪鹿庁の取り組みから考える猟師のこれから

都市部に住む若者が、山に住む猟師の暮らしを学ぶ。そんなきっかけをどこかに探していた。自分自身、肉を食べさせてもらっている1人消費者でしかなく、実際に獲物をとって解体する苦労も有り難みも知らない。現代の暮らしは効率的であることと豊かさが必ずしも一致するわけでもなく、それに気づきつつある都市部の若者は多いと思う。実際に獲物が取れるかもわからない、でも狩りにいく。実際に獲物が捕れない日もあり、一見非効率な営みである。でも、自然と対話する豊かさと捉えることもできる。

 

今日は都市部の若者が山に住む猟師に関わる方法を探るべく、猟師の方にオンラインでヒアリングを行った。岐阜県郡上市に「猪鹿庁」というグループがある。インターネットで検索してみると、猟師の業界では見たこともないほどキャッチーなHPが出てきた。単に狩猟をするだけではなく、ツアーやイベントなどを行い、積極的に狩猟の素晴らしさを発信されているとのこと。とても興味が湧いてきた。詳しい活動内容を知りたいと思い、友人にリーダーの興善健太さんを繋いでもらって、ZOOMでお話を伺った。

 

▼猪鹿庁のHPはこちら(写真はHPのトップ画像)。

inoshika.jp

 

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活動に至る経緯

まず、猪鹿庁というグループが生まれるまでの経緯について。

興善さん:初期のメンバーは移住者たちです。林間学校のスタッフをしていたが、冬の仕事がありませんでした。そこで、地域の方々に昔、冬は何して食っていたのかを聞いたら藁仕事とか夜なべがほとんどでした。一方で、イノシシの市場があって狩猟文化もあり、スキー客に振る舞うというお話も出てきました。それなら自給自足の一環として狩猟をやってみるかということで、今の活動を始めたのです。今まで経験してきたのは、グリーンツーリズムなど、自然の楽しみを伝えていくような仕事でした。それを狩猟の分野でも生かして体験ツアーなどを企画できるかもしれないと感じました。それが、この猪鹿庁の活動にもつながっているのです。僕らは、「猟師は里山保全者だ」と考えて、活動をしています。猟師として生きることは山を守ることでもあるからです。近年は、豚コレラが流行したので、イノシシ少なくなって、ジビエの事業が縮小しました。だから、どんぐりなどの実のなる木を植えて造林をすることだってありました。

 

次世代への継承と発信

興善さんの活動は狩猟という世界を広く捉え、山として保全してどう継承していったらいいのかという考えのもとに行動していることがわかる。それでは、次世代へ継承という意味で、狩猟の業界ではどのような発信を行なっているのだろうか。

興善さん:メディア戦略は、地元と外で完全に分けて考えています。地元に関しては常に謙虚な姿勢で、年長者を立てます。儲からないボランティアの仕事も率先して行います。外に関しては、ブログやSNS、狩猟体験ツアー、イベントなどで、少し茶化して発信します。それから、真面目な農水省との研修も丁寧に向き合っています。まずは、肉を食べてもらうことが重要です。ツアーは一泊二日にして、夜のバーベキューで肉を食べてもらうようにしています。外からの移住者という意味では、子供達と遊ぶ住み込みバイトや、郡上カンパニーの移住促進に向けた取り組みなどを経由して興味を持ってもらう場合が多いです。

 

猪鹿庁では、クラウドハンターという活動があるそう。罠の狩猟の現場に都市部の人を連れてきて、トレイルカメラにsimカードをさして、自分のかけた罠に獲物がかかると携帯に通知が来る仕掛けがあるとのこと。この仕組みを使えば、都会にいて山が身近になく地方移住ができない状況の人でも、関係性さえ作れば猟師になれる可能性も広がる。まさに、猟師の関係人口が生まれつつあるのだ。

https://inoshika-tour.tumblr.com/201810_c_hunter

 

和歌山県では、「山肉山分け」という取り組みもあるそう。罠を仕掛け、仕留め、解体するところをライブ配信しているとのこと。インターネットからでも身近に狩猟の現場を知ることができるというわけだ。

https://damonomichi.com

 

里山循環と今後取り組むべきこと

これからの狩猟とその背景にある里山の循環を考える上で、今後取り組まなければならないことについてもお話を伺った。

興善さん:脂ののった熊や猪は需要があります。鹿は普通に美味いが、熊よりは劣ると考えている人も多いです。猟師に美味い鹿肉があることを知ることから始めるべきかもしれません。低温調理をするのが肝、焼きすぎるとパサパサになります。あとは、有害駆除費、捕獲奨励金がもらえるから、捕った獲物を加工しなくても良いという考えもあります。でも、せっかく頂いた命なので、食べてもらった方が良いです。郡上市は4〜5箇所も食肉加工場があります。行政が率先して、それらの加工場を立ててくれるのです。200万円くらいで立てることもでき、地域に一つはあった方が良いでしょう。さらに、それを管理する人がきちんといることは重要です。

 

ジビエ工房めいほうという加工場があるそう。

http://gibier.meiho.info/meiho.html

 

獣害対策や野生生物管理に関するジョブマッチングもあるのだとか。

http://furusato-kemono.net

 

今回お話を伺ってみて、都市部の若者がオンラインやオフラインで、狩猟の現場に関わる機会は少しずつ全国で増えつつあることを実感した。しかし、実際に移住してどっぷり狩猟をしたいという人はまだ少ないようだ。10年間活動してみての実感だという。しかし、都市部にいながらも、自分がかけた罠の様子をチェックできる「クラウドハンター」というサービスや、オンラインでも狩猟の現場に立ち会える「山肉山分け」という取り組みなどは、とても画期的だと感じた。これがうまく自分でも主体的にやってみようという動機にもつながればと思う。自分は文章や写真を通じて、何かを発信していける立場でもある。今後、狩猟の業界にどう貢献しうるのかをまたじっくりと考えていきたい。