【岩手県遠野市】 しし踊りと猟師取材 2日目 ~狩猟に連れて行ってもらう~

12/2(水)は岩手県遠野市に滞在して、猟師さんの取材を行った。初めての猟の同行だったが、ライフジャケットなどを貸してくださり、車での送り向かいもしていただき、とても貴重な経験ができた。その時の様子を一部ご紹介する。

 

①狩猟に連れて行ってもらう

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宮守の猟師・高橋蔵さんが、朝6:30から狩猟(鉄砲撃ち)に連れて行ってくれた。開口一番、「昨日は満月だったから、今日は獲物は期待できない」とのこと。理由はわからないが、結果的に、予想通りの展開となった。飛び立ったカモ数羽と獲ることのできないヤマドリの雌を見ただけで獲物は獲れなかった。ヤマドリの雌がいると、雄もつがいでいる事が多いので探してみたが、見つからなかった。猟師の言い伝えとカンは的中したのだ。鉄砲を撃つところは、見せていただく事ができた。車で移動して林道を合計10本程度回ったのち、11:30頃に終了した。

 

この結果、僕は重要な気づきを得た。自然に祈りを捧げるとは、「獲物があの笹の狭間から出てきてほしい」という風に願うことなのかも知れない。鹿の足跡があるとか、前に鹿を獲ったことがある場所があるとか、U字型の谷があるとか、少しひらけた場所があるとか、少し晴れ間がのぞいて獣が日向ぼっこしにくるかも知れないとか、そのような獲物の気配を感じる場所やヒントが林道近辺にはたくさんある。ここで、「獲物よ出てきてくれ」「なぜ出てこないのだ」と誰しも感情の揺れうごくからこそ、そこに山の神様の存在を感じるのだと思う。確実に獲物が撃てるなんて保証はどこにもない。

 

鉄砲を撃つ猟師に必要なのは、車の運転をしながらも周りの小さな違和感を察知して、素早く獲物に気付く力とのこと。視力や聴力、嗅覚などを活かして、それを察知しなければならない。獲物を察知する正確さが必要。蔵さんはキジバトを見つけそれを雌だと判断するまでのスピードがとても早かった。猟は五感を使う。獣が泥をかぶってダニや寄生虫を落とすために、沼田場(ぬたば)にいる事があって、その匂いには敏感になる。ライジャケットの色やクマ鈴の音は自然界に存在しない。自然にはないものが逆に目印の様なものになる。鹿が好むものを置くとか、youtubeの鹿の鳴き声を流すとか、超音波で誘き寄せるとか、猟の仕方が今後変わっていく可能性もある。鹿のことを勉強した上で自然界にしっかりと向き合う事が必要。

 

また、猟師は土地を熟知しなくてはならない。まずは、自分が猟できる場所がだいたい決められていて、それは猟友会に入ることで自然と決まっていく。なおかつその土地の人とのコミュニケーションを通じて、獣を獲ってほしいと言われて獲るという場合もある。そうすれば、獲物を埋める時も、埋める場所が自ずと決まる。人知れず山に入れば良いというわけではない。地域とのコミュニケーションの中で、狩猟が行われている。先輩猟師に教えてもらった猟場には、先輩に声をかけてから行く。あるいは先輩が死んでから行く。数珠つなぎで人に知られていくと良くない。今回、林道を5本くらい回った。それぞれの猟師に自分が猟場としている道がある。

 

②イノシシ肉を食べる

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12:00頃からおさむさんの家でジビエをご馳走になった。イノシシは厚い肉のまま、熊の油とニンニクを敷いたフライパンで油に泳がせるように焼いていただいた。重要なのは肉の中心温度。きちんとした火加減で焼けば、中まで火が通る。上の写真のような状態はまだ生焼け。少し切ってまた焼く。馬と鹿は体温が高いので寄生虫が肉に入りずらく、刺身で食べられる。でも馬と鹿の油は溶けずらいので油としては使わない。熊の油は人間は体温が近く、溶けやすいので馴染む。馬が食べているのが草なのに対して、クマはどんぐり。クマが食べているものはイベリコ豚と似ており、常温でさらっとした感じになる。だから、油として使いやすい。最後は余熱にして、焼けたら塩胡椒をふりかける。臭みがなく、とても美味しいお肉だった。蜂蜜も出してくださった。ナッツにつけると美味しい。透明で透き通っている。狩猟はもともとクマが養蜂で作っている蜂蜜を狙うから始めたそう。蜂蜜は巣枠の年数によって、透明度が変わる。3年くらいで取り替える。

 

狩猟の詳しいお話も伺った。狩猟は非効率だから楽しい。効率を追求するなら牛を食べれば良い。それでも山に入るモチベーションはどこから来るのか。20歳になって銃を持つのが当たり前だった世代は、Gメン75などの映画を見て憧れ、銃を持つのがステータスだった時代がある。コンテストで上位になればライフル協会からの推薦状があれば、最速でライフルが持てる。銃の免許を持っているだけではなくて、自然が好きでないと猟師にはなれない。自然への憧れではなく自然への敬いを含め、自然に暮らしとして関わっていく事が大事。猟友会に入る事でも、狩猟のルールやマナーを学ぶ事ができる。遠野の猟友会は70人くらいいて、平均年齢は70歳越え。ただし、ご高齢の方だとほとんど銃を使わない人もいる。アル中で普段ブルブル震えている人でも、銃を構えればビシッと的中させる。女性だと一人だけ61歳で始めた人がいる。

 

カラスの有害駆除は大変。畜産農家さんから依頼される事がある。大きな箱罠に1羽を捕まえて入れておく。そしたら仲間が助けに来て、それを捕まえてを繰り返す。それをゴミ袋に入れて焼却所に送る。ヤマドリやキジ、アイガモは美味しいので食べる。狩猟の楽しみは鳥猟にある。熊や鹿は有害駆除の側面が強い。コジュケイを獲って食べた事はないので、獲ってみたい。猿は撃たない。人間の先祖でもあるし、完全な四足歩行の動物でもないから躊躇するとのこと。やはり、そこには動物に対する畏敬の念のようなものが少なからずある。獲物によって、引き金を引く重さが(精神的に)異なる。また、有害駆除と狩猟でも気持ちの持ちようが違う。

 

養蜂組合も猟友会も自分に回ってきて、頑張れよって言われて始めた。やりたいことはあるけど、やるべきかはまた違う話。あと10年で猟師は半分になるだろう。ご高齢の方と若い人を繋いでいかないとといけない。一番大変なのは福島。2011年以降、猟師の空白地帯になってしまった。逆に言うと始めるなら今。中古銃がたくさん出回っている。銃は通販では手に入らないので、銃砲店で購入する。手軽なのは罠猟。試験対策の講習会に出て、免許を取得して、狩猟者登録をすれば始められる。金銭的にも負担は少ない。ただ、銃を持っていないと罠に掛かった動物を仕留めるのにバットや電気などを使わなくてはいけない。それが大変なので、猟友会の人と仲良くなって、仕留めた時に銃で撃ってもらう関係性を作る必要もある。

 

③書類書きを見学

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15時半頃から、有害駆除の報告書類書きに同行した。認定有害駆除は、県や市からの仕事を各地域の狩猟免許取得者で構成される班が請け負う。県の場合は鹿を獲ると大人一頭1万円, 市の場合は大人一頭1.4万円などの価格設定があり、その中で書類書きの事務手数料や飲み代、撃った鹿に番号を振るスプレー代、振込手数料などを差っ引いたお金が個人の手元に残る。仕留めた人が班長を通じてお金を受け取れる仕組みだ。仕留めた証拠として鹿の尻尾を集めるとともに、鹿の頭を右側、尻を左側にして横に寝かせた状態にして仕留めた人が日付などを書いたボードを持ち一緒に写真に映る。それらを班長に提出して、班長が取りまとめて提出する。日付が違うと、書類不備ということでお金が受け取れないので注意しなければならない。班長が行う書類書きは、1時間ちょっとで終了した。

 

本日のまとめ

初めて狩猟に同行させていただいたが、自然と対話する感覚を実際に肌で感じられてよかった。本や文献、インタビューから想像するだけではわからない事ばかりだ。その意味で、狩猟に対する理解が深まり、とても充実した1日だった。