日本全国でも珍しい?お湯を撒く!箱根・湯立獅子舞を見てきた

箱根仙石原に伝わる湯立獅子舞は、日本全国でも珍しい湯立の形式を持つ獅子舞だ。先日、国選択無形民俗文化財にも指定された。この神事の珍しさに着目しながら、先日取材させていただいたときの様子を振り返りたい。

湯立獅子舞の由来

箱根仙石原諏訪神社境内にある湯立神楽の碑には以下のような内容が書かれていた。

諏訪神社に伝わる湯立神楽の起源は、安永5(1776)年、甲斐国郡内下吉田村富士吉田市下吉田)の住人である萱沼儀兵衛が伝えたことに始まる。国家安泰、家内安全、五穀豊穣、悪疫退散などを祈願して、地域住民の精神の拠り所となり、厳格に秘伝された民俗芸能だ。宮舞、平舞、劔の舞、行の舞、宮巡りの舞、釜巡りの舞、四方固めの舞の7種類が奉納され、大釜の熱湯を神楽の法力によって冷まし、氏子の頭に振りかけ無病息災を祈る神事である。獅子が人に代わってその行をするのは全国的にも稀な価値を有している。

湯立神楽を獅子が演ずるから湯立獅子舞と呼ばれるようになったのだろう。元々は御殿場の方で獅子舞を遊び覚えた若者たちの集団がいて、若者組の分裂を恐れた長老や村役人たちがそれを却下。追及を逃れるためにその若者たちは箱根に湯治に出かけ、疫病に苦しむ箱根・仙石原の人々に獅子舞を教えた。それもあってか、長老や村役人たちと若者が仲直り。若者たちは村掟を守るようになったというめでたい話もある。湯立獅子舞が根付いた背景には、周辺の村との交流と疫病の流行もあったように思われる(箱根町教育委員会生涯学習課(2021)『箱根の湯立獅子舞』)。

それにしても、行をやる獅子というのもなかなか見たことはない。途中、担い手の男たちが境内の池の中に足を浸し、池の真ん中にある紙垂と注連縄によって囲まれた島を取り囲むというシーンがあったが、これはまさしく修験者の行のように思われた。

獅子舞の構成から感じたこと

実際に仙石原諏訪神社で3月27日12時から15時半の日程で開催された湯立獅子舞を拝見してきた。一見して、これは伊勢太神楽の影響があるのではないかと思った。獅子頭面は権九郎であり、胴幕を絞って胴体に巻き付けるような仕草も見られたからだ。

7種類の舞いはそれぞれ違うものの、基本的な構成は似ていた。胴幕ありの2人立ち→胴幕を巻き付けた一人立ち→胴幕ありの2人立ちという3部構成になっていて、最後の2人立ちは獅子が荒ぶるように激しい動きが目立った。

獅子頭の雄と雌について

また、獅子舞は基本的には1頭での演舞だったが2頭おり、そのうち1頭は祭壇に置かれるか、軒下に置かれているような場面が多かった。この演舞しない獅子についても気になったので聞いてみた。「これは雄獅子と雌獅子(で一対)ということでしょうか?」と尋ねたところ、そうではないらしい。仙石原の諏訪神社にいるのは全て雌獅子で、7月に湯立獅子舞を行う宮城野の方に雄獅子がいるという。この雄と雌が逆という説もあるらしい。

全体を通して考えてみるに、地域行事というよりは神社の氏子に向けられた神事が、箱根という土地柄で一般向けにも徐々に公開されるようになったようにも思える。運営組織は湯立神楽の保存会である一方、メディア関連の対応は箱根神社宮司さんが取りまとめていらした。ただ、神事のあり方は今も昔も変わっておらず、かなり厳粛に伝承されているようにも思える。とりわけ宮巡りの舞は、注連縄と紙垂を着用した報道関係者と氏子しか見られないもので、今回は取材者の立場だったので、かろうじてこれを見せていただいた。とても貴重な経験だった。