富山県はやはり獅子舞が盛んだった!射水市で獅子舞工房を訪れ、100周年の例大祭を取材

富山県射水市の久宗獅子舞工房の久宗さんに誘われ、富山県射水市に行ってきた。11月2日は工房に訪問してから3日は戸破加茂社の例大祭を取材させていただき、そこで披露された高穂町の獅子舞も拝見してきた。

 

11月2日

久宗獅子舞工房で最も驚いたことは、獅子頭制作で使用するのみの本数である。所持している本数はなんと150本に上る。小学校や中学校の授業で使う彫刻刀の数を思い浮かべてほしい。せいぜい5本である。それが150本てどんだけ繊細な表現ができるんだよと思った。実際作業風景を見ていると、一箇所を掘るのだけでも3本ののみを使い分けていて、大ぶりに削るところから徐々に細かく鋭利なものに持ち替えていた。なるほど、最初は大まかな形を作り作りたい形の輪郭を作り出さねばならない。図案がしっかりしていれば、堂々と間違いなく掘っていけるようである。そこら辺の感覚が非常に面白い。

また、獅子頭を掘ってもそれが獅子舞という実際の現場で機能していかねばならない。となると、自分が掘ったモノが、踊り手の行動すらも左右するということを意識せねばならないのだ。だから、実際の舞の現場を見たり、写真を見たりして、入念に作らねばならない。例えば、鼻を棒でつつくようなところの獅子頭は鼻の部分を厚めに作る必要があり、そのほかの部分を薄めに作らないと結局重くなってしまう。そういう全体的なバランス感も必要になってくるというわけだ。

獅子舞工房のyoutubeに対する向き合い方に関する話も非常に面白かった。youtubeの動画は生活の中で、無理なく挙げられる内容でないと続かないという前提を考えてから、実際に獅子頭制作の裏側に迫るような制作風景を配信されている。結局獅子頭といっても、完成品しか見たことのない人が多い。実際どう作っているの?というそのプロセス、問題と解決、試行錯誤の様子を流しているようである。一方で、それを配信することで、自分の制作スピードが遅いと感じたら、動画を上げるスピードも遅くて、視聴者さんからもコメントが来るという風に、外部からの監視機能を設けて自分に鞭を打つように動画を上げているという話もしていた。単純に再生回数云々というよりも、自分にとってみてほしい人が見てくれて、それによって自分も制作が順調に進んでいくような生活循環を生み出しているというわけである。それは非常に面白い視点で、僕も自分の写真や記事といった成果物を発信しようとするだけでなく、そのプロセスないし自分の生き方的なところもまで含めて見せていくことで新しいコンテンツとしての可能性は広がっていくし、本業の可能性の部分も広がっていく可能性もあると感じた。

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11月3日

富山県射水市の戸破加茂社の社殿再建100周年記念のお祭りが開催された。前日の前夜祭は関係者のみの厳かな神事を開催。祝詞を読む姿が非常に堂々として印象的で「おおお」と言う神が舞い降りるような場面が印象的だった。また、お祭り当日は、毎年行われる秋の例大祭に加えて、日本舞踊や創作舞踊、高穂町の獅子舞披露等を実施。小学生の浦安の舞は例年通り行われた。いつも以上の賑わいだったようだ。また、新型コロナウイルスの影響で、衣装の発注や告知など3ヶ月かかる子供達の大規模な稚児行列の実現は難しかった。秋祭りは例年11月1日前夜祭、2日本番となっているが、今回は文化の日に合わせて2日前夜祭、3日本番という形で開催された。今回の例大祭のポイントは、まず100年前、大正3年に火災にあって拝殿を失い、大正9年にその拝殿が再建されたという事実。つまり、当時1億円くらいのお金を6年間で地区内の中で貯蓄して着工できたということだ。それで、これほどまでに豪華で立派な社殿が建築されたというわけである。社殿を歩いていて、奉燈の高さも非常に高く、その点でも奉納にかかる金額含めかなり社殿にお金がかかっているように思えた。戸破という地域内には、2つの神社があり、そのうち1つの戸破加茂社は周辺のいくつかの神社を合祀して1600年代に誕生した。戸破地区内には約9000軒の家がある。

僕は富山県の獅子舞に対する思いの熱さがどこから来るのだろう?というのが常々気になっており、祭りに誘われたことを良い機会と思い、獅子舞の取材を実施した。その時の様子を振り返る。まずこの高穂町の獅子舞の特色として、シャガを被った天狗が登場すること、担い手の数と演目数が多いこと、祝儀が非常に高いことの3つが挙げられる。

まず、シャガを被った天狗について。この地域の獅子舞は、天狗が出て獅子と対峙するものの、天狗は獅子を殺さない。これが、加賀獅子と決定的に違うところだろう。神社、神様の使いという意味合いで天狗が登場し、獅子を操っていくようなイメージである。天狗が獅子をここから先には通さない立ち入り禁止のような意味で、刀を地面に突き立てるような場面もある。自然を殺さず野放しにもせず、うまく関係性を作っていくようなそういう感覚かもしれない。

また、担い手の数であるが、「獅子方」というのが、獅子舞を運営する。ということは、青年団でも若連中でも壮年団でも保存会でもなく、年齢性別関わりなく運営に参加できるということである。この獅子方に所属しているのは約30人ほどだという。10代から50代まで年齢層も様々で、男性だけでなく女性も笛などの役割で関わっている。太鼓はリヤカーにおいて獅子の後ろ側に位置し、これは石川県でよく見られる獅子の前に太鼓がある形態と大きく異なる点である。太鼓の人数は1人だが、獅子役を務めるのが5人ということで数が多い。それに加えて獅子と対峙する天狗役の人がいて、天狗が持ち物を持ち変えるので、刀やら鎌やら薙刀やら使う道具を渡す子供もその横に立っている。また、横笛が複数人いて、女性や年配の大人がこれを務める。そう考えると、軽く10名以上は常に必要で、それに加えて町中を回るときは交代要員が必要になるという具合である。自分の役割があって新しい人が入らん限りはその役目を全うするという話も聞いた。役割が多いからこそ、分担してうまく回しているようだ。

演目の数としては12種類あり舞う順番で言うと、フタツ、ムッツ、カヅキ、シムカエシ、タチ、トマ、ネンカケ、ミヤマル、ツンツコ、カンパタル、ミッツ、サンロがある。最後の3つは特殊で、お宮さんなどで実施するものである。ご祝儀の額によって舞い方が変わる。高穂町は、富山県射水市東老田(中老田と言う人もいた)という地域から100年以上前に獅子舞を習った。今では踊り方は年月を経て少し変わっていて、高穂町は激しくて東老田の方がゆっくりなテンポとなっている。

ご祝儀の額であるが高い家だと昔は10万円を出すこともあったようだ。桁違いである。これほどまで個人がご祝儀を出すことができる地域はなかなか少ないだろう。背景としては、高穂町はもともと農耕地帯で農家の人がたくさん住んでいた。その人たちが田んぼを売ることで儲けるという背景があったようだ。これは単にお金持ちが町を応援する気持ちでご祝儀を払っているのか、祭り好きでとにかく獅子舞に対して熱い思いがあるか、見栄があるかのどれかだろうと感じた。今でこそ個人のご祝儀の最高額が5万円程度のようだが、それでも桁違いに高い。このような人がいるからこそ、祭り文化は下支えされているとも言えるだろう。

祭りは町内50軒を回る。休憩は10時、12時、16時くらいに30~40分の休憩を公民館で行い、お昼は公民館で食べる。終了時間が夜の23時頃なので、祭りが終わる時間が遅めなのも興味深い。4月の第2日曜日に獅子舞の祭りが行われる。秋祭りでは通常獅子舞を行わないが、今回は100周年ということで、特別に神社の奉納と公民館前で演舞された。通常、基本的にはお宮さんの氏子払いで町内を回っていく。悪魔払いの意味で、神輿の前にお宿について獅子舞が行われるのだ。ただ、基本的に、神輿と一緒に獅子舞が回ると言うわけではない。今回の祭りを通して、富山は獅子舞が盛んな県であるという印象が、より一層強くなってきた。

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