人形に感情を託す!?人形浄瑠璃の獅子舞の奥深さ~ 石川県白山市「尾口のでくまわしと徳米座」

10月17日

10:00~

石川県白山市「尾口のでくまわしと徳米座」

石川県白山市松任ふるさと館にて、人形浄瑠璃のイベントが開催された。人形浄瑠璃の研究家・マーティン・ホルマンさんのトークショーののち、3団体の人形浄瑠璃の演舞を実施。白山市内の伝統的な浄瑠璃を継承する2団体(東二口文弥人形浄瑠璃保存会・深瀬木偶回し保存会)に加え、徳島県の徳米座の上演も行われた。国際的な視点に加えて、石川県と徳島県という国内団体の交流、伝統的演目と現代的演目という時間的な流れ、様々な視点で楽しめる人形浄瑠璃のイベントだった。

人形浄瑠璃の研究家・マーティン・ホルマンさん(徳米座)によれば、人形浄瑠璃の特徴は、「人の感情を布でできた人形に託す」ことにあるという。つまり、俳優のように役柄を自分の身体を使って演じるのではなく、人形遣いが人形に気持ちを託すことによって、人形浄瑠璃は成立するのだ。人形に魂が込められることによって、人間自らが演じなくても人を感動させることができる。そこに面白さや魅力があるというわけだ。

人形浄瑠璃の獅子舞を見たことがあるだろうか?多くの獅子舞は「人が獅子を動かす」ことによって行われる。一方で、人形浄瑠璃の演目として獅子が登場する場合は「人が獅子を動かす人形と獅子を操る」ことで成立する。つまり、ここに二重構造が生まれているのだ。人形浄瑠璃の獅子舞は2人で操作する。1人目が腰の下から左手を入れて、ちょんまげ姿の人形の首を操作するとともに、右手で獅子頭を持ち獅子頭の舌の部分についた金属を引くようにして口をパクパクさせる。もう一人は、人形の両足を操作するという役割分担だ。どちらも黒い衣装を全身に纏って、実際上の人間(演者)はあくまでも「黒子」に徹するのだ。ホルマンさんによれば、これは江戸の糸操り人形からインスピレーションを得たものだという。また、島根県益田市にもこの糸操り人形がある。これらを見て、今回、2008年ごろに創作されたのが、今回の獅子舞というわけだ。

今回演じられた演目は夫婦獅子という獅子頭が2対1組の形で演じられるものだった。浮気を責められた雄獅子が雌獅子に許してもらおうとする様子をコミカルに描きながら、新型コロナウイルスによる苦境を一緒に乗り越え、みんなで一緒に笑い合おうという意図で行われた。まずは雄獅子がおかめにそそのかされて、風船ガムを噛み膨らませて、それがばちんと割れる。その後、おかめは花や蝶々をひらひらとさせて、雄獅子はそれを追う。また、観客の頭を噛むシーンが多数挟まれ、途中で劇団員にマスクを被せられるシーンもある。それから雌獅子が登場しておかめの花を咥えて持って行ってしまい、違う花飾りを持ってきてお互いの首に掛け合ったり、雄獅子が雌獅子にサングラスをかけたりするシーンがあり、最終的には子供も生まれるというような流れだった。伝統にとらわれることなく、わかりやすくコミカルに演じるその姿は、ホルマンさんが作った徳米座の国際色豊かな演者達の感性も合わさって、非常にユニークなものとして完成されていたように思う。

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