【2021年4月】石川県加賀市 獅子舞取材 山中温泉

2021年4月9日〜10日に、写真集『我らが守り神 石川県加賀市獅子頭たち』の配布や今年度以降の獅子舞取材の計画を練るため、石川県加賀市に滞在した。その中で、10日に山中温泉の獅子舞に関して、追加取材をさせていただいたのでご報告する。

 

送迎は山口美幸さん。案内人はムラタフォトスの村田和人さんで、山中温泉の獅子舞について追加で様々な場所をご案内いただいた。村田さんは、まず山中漆器の職人である清水郁男さんを紹介してくださった。清水さんは、今の山中温泉の獅子舞を運営する青年団が、温泉を中心に4つに分かれていた時代をご存知とのこと。昔の山中温泉の獅子舞はどのように実施されていたのだろうか。

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photo by 村田さん

 

まずは、大正の頃には山中温泉総湯を中心に以下の3つの団体に分かれていたそうだ。なぜか4方位ではなく西と北が一緒に作られて、西北団と呼ばれていたそうだ。

西北団(西・北)

東志団(東)

南友団(南)

 

それから西北団の一部が、北の桂木団ができた。桂木団の一帯には外来の人が住んでおり、小学校ができたこともあり、担い手が多かったのが背景である。木が剥き出しの獅子頭を使い、棒振りが2人いた。これで、東西南北の4つの獅子舞運営団体ができたのだ。(※この獅子舞は山中温泉中田町や長谷田町のものとは異なる)

桂木団(北)

西北団(西)

東志団(東)

南友団(南)

 

これら4団体合わせて約100人の男女が所属する大所帯だった。学校が男女共学でなかった時もあったので、青年団は男女が交流する貴重な場でもあった。当時は車を持っている人がいなかったので、バス旅行もした。山中で初めてベンツを買ったのは「熊吉」らしい。

 

幹部、準幹部は25歳までの若者が務めた。大学に行って帰ってくると青年団に馴染めなかい人もいたが、そもそも大学に行く人が少ない時代だったので、青年団に加入する人が多かった。

 

いつ頃からか、4つの団体を束ねる連合青年団ができ、運動会もするようになった。青年団の2大イベントが春の運動会(昔は仏様の祭りだったかもしれない)と秋の獅子舞の祭りだった。小学校の学芸会で獅子舞もしていた。一番財政が良かったのが、大聖寺川に旅館やゲーセン(芸者?)が並んでいた東志団。お酒は1回の祭りで120本ももらうので、それを一部旅館などに半額で売って(アトオキとして)運営資金に変えた。一部は交流費に使った。

 

各団体共通で「4つ」と「8つ」という舞いを演じることができた。4つは一番安い舞い。8つになると高価で、少し長い舞いを行なった。ただ、それ以外に各4団体はそれぞれ1つだけ独自の舞いを持っていた。南友団が眠り(芸者由来?)で、桂木団が棒振り2人で行う舞い(他の団体は棒振りが1人)で、東志団は四国の金毘羅由来の太鼓が出てくる舞いだった。以上合計3つの舞いを各団体それぞれが持っていた。東町一丁目(東志団?)などには、子供獅子もあった。5,6人のグループができて、青年団の人に教えてもらっていた。子供獅子は当然小さい頭を使った。子供獅子かはわからないが、一部の獅子頭は山中産業という会社の倉庫に今でも保管されているようだ。

 

山中青年団はこの後、この4つの団体が再び1つに吸収された。人数が一時少なくなったということもある。その背景としては、大学進学率が増えて、少子化の影響もあった。

 

しかし、今は再び青年団が増えつつある。リーダーの力量が大きいようで、楽しい雰囲気を作るのが上手なのかも知れない。今は春の祭りはなくなり、秋のこいこい祭りのみになっている。こいこい祭りは、山中が加賀市になってから片山津や山代に負けない祭りを作ろうということで作られた。山中町から加賀市になった時に、青年団の団室がアパートに一室になった。祭りには獅子舞以外にもグループもあるので、青年会館や公民館など良いところには入るのは難しかった。今は舞いは眠りから始まる。角がある獅子頭は雄獅子、角がないのが雌獅子。今は、獅子舞を行うときだけ3グループに分かれ、最後に5体の獅子が一堂に会しとても華やかである。神輿もやるようになった。3グループに分かれるとはいえ、お酒やご祝儀など集めたものは、最後に一括で山中青年団として保管する。5体の獅子頭青年団のアパートの一室に保管されている。コロナ禍では、祭りまでは無理だけど、子供の獅子頭との記念撮影の会が開かれたらしい(村田さん談)。

 

山中漆器の塗り職人さんということで、「獅子頭の塗りはされるのですか?」と伺ってみたところ、白木のものを塗ったという話は聞いたことがあるとのこと。しかし、あまり頻繁にやっているようではないらしい。最後に、仕事場を見学させていただいた。ハケが一本10万円と聞いて驚愕の値段だったが、これ一本あれば20年は持つようだ。

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 photo by 村田さん

 

この清水さんの取材の後は、新名留さん作の山中温泉東町に寄付された飾り獅子を見た。山中には祭りに使わない飾り獅子もあることがわかった。町内のお祭りの日には展示が行われるそうだ。個人のものにしないで、公開しているのが素晴らしい。なんと白山市鶴来まで行って、弟子入りして職人につくり方を習って作ったそうだ。獅子頭は2体作ったそうで、1体はこの東町に寄付したもので、もう1体は東京のお孫さんに送ったとのこと。

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とても立派な獅子頭だ。模様が赤黒金でシンプルにまとめられている。木が分厚くて重く重厚感があるのが特徴である。村田さんが獅子頭に負担をかけないようにと配慮して、顎を外して置いているのが印象的だった。

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出っ張り顎バージョン。なかなか可愛らしい。

 

それから、過去に土木関連で使っていた倉庫に保管されている大獅子神輿の獅子を拝見した。とても大きな獅子だ。顔に奥行き感があり、江戸時代後期のかなり古い獅子頭を連想させ、敷地町や菅生町にも通じるようなデザインだと感じた。耳は顔の裏側に保管されている。牙が2つあり、鼻に穴が空いていないのが特徴だ。また、作られてから30年経っているので、髪の毛などの痛みも見られる。塗りはとても綺麗だ。角には紐がかけられており、鈴がたくさんついている。

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村田さんは山中温泉の駐車場ごとに、神輿の獅子をガラスケースに入れて、展示するという計画も進めておられる。駐車場ごとに獅子の名前をつけたら良いかもしれないとのこと。確かに、日常的に獅子に親しむきっかけとなるので、とても良いアイデアだと感じた。北國新聞にもコラムを書いておられた。→村田さんのブログ参照。

kazundo.exblog.jp

 

今回も山中温泉の獅子の取材、写真集の手渡し、今後の獅子舞取材の会議と、とっても充実した滞在となった。今年度の獅子舞取材の展開については、また後ほど書かせていただくこととする。とても面白い取り組みができそうで楽しみだ。