記録写真の限界と今後の方向性、獅子舞写真にどう向き合うか

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最近、獅子舞撮影に関して考えていることは、「獅子舞の鼻」だけ撮影することにどのような意味があるのかということである。この鼻撮影の意図としては、最初は面白がって欲しいからと単純な理由で始めたものだったが、山代の服部神社を訪れた際に、獅子舞では鼻を観客に向けて踊らないというエピソードを聞いてから、なるほどタブーを撮るという価値は存在するのかもしれないと考えていた。つまり、獅子舞は厄を払うという本来の意味を示すために激しくて勇壮でなくてはならず、鼻を見せるということは可愛らしさを表現してしまうので好ましくないと考えられているようである。これを撮影することで、新しい独自の視点で獅子舞に向き合ってみたいという発想の転換が自分の中で行われた。

 

2019年は獅子頭を約30頭撮影した。それで、カタログ的に並べてみると、可愛くて獅子舞の多様さが表現できていると感じた。しかし、それは単なる情報でしかないということも思い知らされた。写真家や評論家に今後の方向性を相談してみたところ、様々なアドバイスをいただいた。

 

まずは、写真集の編集者と会った。写真をただ記録するということに対する限界も感じた。7大陸最高峰の到達、北極と南極の横断、未開地域の探検、それら全てがもうやり尽くされた今、ただ受身的に事実を並べることに人はなんの驚きや面白みも感じることができなくなってきている。インターネットには情報が溢れ、google mapでその土地の風景を容易に検索できてしまう。写真界でいえば、石川直樹宮本常一といった水平に果てなき網羅的な記録を続けた先人が既にいて、自分を無にして客観性に限りなく近い写真の第一人者になることはかなり狭き門である。ヨシダナギのように、ビジュアルの美しさを追求したファッショナブルな集合写真も先人が既にいて、もう撮り尽くされてしまっている。1民族1集合写真のような撮り方なので、どう頑張ったって撮り尽くされてしまう。真面目な学術的な写真も、その世界をただ真面目に写すことにしかならない。ただ、頑張ったね!と言われる写真は、誰でも頑張れば撮れるわけで、「独自の視点」の意味をもっと追求したい。「獅子舞の鼻」も、言うなれば最初の着眼点が面白かったものの、そこからカタログ的に並べるだけの行為は思考停止状態である。だから、その先にアイデアが必要になってくるのだ。多分、カタログでもそれは頑張ったことが評価されるべきだという人も無論いるだろうが、個人的には次のステップが見えてくることが大事だと考えている。カタログ的な撮り方は、統一的に機械的に行わなくてはならず、それが退屈になってしまう。技術の革新などで、もっとより良い方法が確立され、今までの撮影がパーになるという恐れも少なからず存在する。同じアングルでしっかり真面目に撮って並べることに対する疑問はいまだに膨らんだままだ。カタログ写真は努力が見えるという点ではとても良い手法なのでそれは続けつつも、より獅子舞の背景にある信仰やそこに関わる人々の内面を抉り出すような写真を模索していくことにする。

 

また、写真評論家と会った。やはり、写真がまだ説明的すぎて、客観に徹しすぎているところがあるということがわかった。やはり、自分は田附勝さんや内藤正敏さんのように、目に見えないもの、神が宿る感覚を想起するような重厚感や狂いを感じさせるような写真を撮ってみたいと実感した。そのためには、カメラの研究も必要である。広角レンズや魚眼レンズなど何かをクローズアップするような感覚も必要だが、被写体を歪めたくない思いもある。自分のカラーとして意識するのは、被写体が極彩かつ重厚で迫力がある強い写真である。

 

今後の方向性として考えたのは、まず石川県加賀市の獅子舞の伝来ルートをインドまで遡るというものである。獅子舞の起源をインドのアショカ王の石柱の台座に求める説があり、そこから、ネパール、中国、朝鮮、日本の奈良に伝来して、そこから分散的に各地域へ伝来したと言われている。獅子舞の伝来ルートは、日本の芸能・文化のルーツと重なることもあり、日本についても深い視座を持って向き合うことができるかもしれない。そして、被写体も仮面舞踊から石柱まで様々なので、この伝来の歴史を追うことでカタログだけの写真ではなくなる。地理的繋がりがどう編集できるかに関心がある。一方で、石川県加賀市という1つの地域に継続的に向き合うということもやっていきたい。獅子舞はその地域の自然、地形、文化、風習、信仰などと少なからず結びついており、地域を撮るように獅子舞を撮り、そこに関わる人々も撮っていくことによって、獅子舞をただマニアの対象としてではなく、地域の信仰を撮るというより深く広域的で本質的な文脈で捉えられると考えている。その構成要素の一部として、獅子舞の鼻が存在するという風に、今後の撮影を考えていきたい。

 

今後の撮影を検討している地域

石川県加賀市:獅子舞の青年団や歴史に詳しい方々のインタビューと周辺小物

石川県小松市:石川県最古の獅子頭が伝来した津波蔵神社と保管された小松市立博物館

石川県金沢市:石川県内で獅子舞伝播の中心だった金沢最古の獅子のある波自加弥神社

岐阜県岐阜県最古の獅子頭が造られた真木倉神社(1304年)と諏訪神社(1306年)

三重県:三重最古の獅子頭が造られた伊奈冨(いなう)神社

三重県桑名市:日本全国に獅子舞を伝えた伊勢大神楽の本拠地である増田神社

奈良県明日香村:612年に百済味摩之が獅子舞を伝えた旧豊浦寺の向原寺

奈良県奈良市:獅子狩り紋様がある法隆寺

奈良県奈良市:江家次第によると、古くから寺院系獅子舞が舞われていた興福寺、法勝寺

奈良県奈良市:獅子舞を全国に広めた東大寺と最古の獅子頭8頭を保管する正倉院

奈良県桜井市味摩之が獅子舞を子供に教えたとされる土舞台

中国山東省:日本との通称関係が深かった呉国があった場所。「中華全国民俗誌」によれば、棺桶の前で獅子が舞踏して、厄払いの信仰あり。

中国ウイグル自治区アクス地区クチャ県:喜多村翁によれば、キジ国の舞楽が中国の文化とともに日本に伝わった。つまり、獅子舞の源流候補地の1つ。

タイ :シンハーパーク、ビア・スィンเบียสิงห์、スィントーสิงโต

ネパールバクタプル:獅子の像と10月の収穫祭(ダサイン)に仮面劇

インドバラナシ:サルナートミュージアムアショーカ王獅子頭柱)

インドサーンチー:アショーカ王獅子頭

 などなど。

 

▼2019年の獅子舞の撮影をまとめたZINEはこちら。

wipty.thebase.in

 

 ▼獅子舞のinstagram

https://www.instagram.com/kagashishimai/