【2019年7~9月】石川県加賀市獅子舞取材 湖城町・橋立町・合河町川尻・塩浜町・塩屋町・三木町・柴山町

2019年7~9月の獅子舞を取材した際に聞いたこと、見たこと、感じたことをここにまとめておく。ブログ記事というよりかは一次資料に近い形で、情報を羅列しておきたいと感じ、ここに記す。

 

2019年7月28日

湖城町の獅子舞

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 湖城の獅子舞は、新興住宅街らしく斬新さを感じる部分が多かった。区長さんがスターウォーズの格好をして現れたり、出店がキーマカレー等のおしゃれなお店が立ち並んだり、伝統というよりもはっちゃけ感を前面に押し出した獅子舞という印象が強い。獅子舞の集団について行くと、途中でプールが用意されていてそれに飛び込むなど、とても楽しい光景が見られた。

 祭りの流れとしては、神社がないので地区会館で朝8:00に御神酒飲みをするところから始まる。その後、地域の家、企業、公共施設などを回り、2日間の獅子舞の最後に18:00ごろに地区会館前の広場に帰ってきてそこで舞いが披露されて終了という形式をとる。祭りの締めは、合図とともにビールをかけ合うというのが恒例となっている。獅子舞のあとは、広場前のステージで芸が披露されたり、出店を楽しんだりする。青年団は宴会が行われる。

 棒振りは小学生が大部分を務め、たまに知り合いの家の時だけOBOGの中学生が行うこともある。基本的に中学生は笛を担当することが多く、女性が多い。大人は基本的に太鼓か、カヤの中に入る。

 中学生は赤いTシャツ、大人の青年団は黒いTシャツ、サポーターは黄色いTシャツ、棒振りの小学生は華やかな衣装を身にまとっている。

 中学生の女の子に青年団に入ったきっかけをインタビューしてみると、「最初は男ばっかりで怖い印象もあったけど、友達が入っていたので自分も青年団に入った。実際に話してみると面白い人たちばかりで溶け込めた」とのこと。また、高校生の男の子にやりがいを聞いてみると、「大人の人に色々教えてもらえて自分が成長できている感覚が嬉しい」と言っていた。

 

 

2019年9月15日

橋立町の獅子舞

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 橋立の獅子舞はかなり迫力がある。午前11:00~13:00ごろまでの短い滞在期間だったが、地域の方にも様々なお話を伺うことができた。

 昔は祭りといえば喧嘩するのが常で、車を押し倒すほどに荒れていたようだが、現在は比較的落ち着いてきた。それでも、海側の獅子は荒れるのが普通で、今でも舞いの激しさは健在である。

 獅子舞の棒振り(舞い手)は子供が担う。白い髪の衣装が最も格が高いとされており、他の人の衣装の髪は黒い。とても華やかな衣装を身にまとい、獅子と正面から向かい合って踊る。

 棒振りがいないときは、獅子の目の前には4人の舞い手が立ち、先端に花がついた棒を揺らすのが橋立の獅子のユニークなところ。雌の獅子はこれらの花の香りに誘われてゆらゆらと近寄ってくるという意味であろう。

 衣装にはとてもこだわりを持っているようで、獅子舞Tシャツを着たり、獅子頭のネックレスを身につけている人もいた。また、獅子のカヤの生地の作りがとても繊細だし、獅子頭は日本最大級の大きさを誇るため、かなりお金もかかっている印象だ。

 基本的には地区内の家々を回っており、橋立3町(田尻・小塩・橋立)がほぼ同時に開催されてそれぞれ対抗意識を持ちながら舞うというのが恒例である。12:00になると、棒振りの子供たちを肩車した青年団が橋立漁港に集結して、大漁旗ひらめく大船団に囲まれながら、舞いを披露する。100円で大漁鍋なる魚介の汁も振舞われ、100人以上の地域の人々が集まり、祭りの賑わいは勢いを増す。

 

 

合河町の獅子舞

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今回、お祭りに参加できなかったため、獅子頭だけ撮影させていただいた。特に由来や祭りの様子は話が聞けなかったため、また来年にでも取材させていただきたい。獅子頭撮影は、神社の境内で行なった。獅子頭などの祭り道具の保管は神社内で行っている。

 

2021年3月3日追記

改めてみると、獅子頭は全体に広がっている白髪が特徴である。

地域にお住まいの橋本弘之さんより。川尻は「かわしり」と読む。蔵宮白山神社は動橋由来の神社。お隣の毛合よりは獅子舞の動きが激しい。玄関の土間まで入って踊る。

 

塩浜町の獅子舞

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塩浜町のラスト獅子舞は神社の境内で行われる。焼き鳥やビールが無料で飲めるなど、出店もかなり充実している。この地区の獅子舞は子供や大人、OBOG混じって、交代で舞う。最も特徴的なのは毎回曲目の最後に、獅子頭を持っているカヤの先頭の人間が約50mくらい引きずられるということである。これは今までで初めてで、おそらく獅子を棒振りが退治したか追い返したという意味で行なっているのだろう。かなり迫力があり、見物している地域の人々が最も盛り上がる瞬間である。引きずられている青年団員は痛そうだが、意外と靴裏しか地面を擦っていないので怪我をするなどの問題はなさそうだ。

 

塩屋町の獅子舞

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塩屋町の獅子舞は最後の奉納獅子舞のみ見学させてもらった。まず、18:00頃に大きな雄獅子と雌獅子の神輿を担いで、町内を練り歩く。雄獅子は男性が担ぎ、雌獅子は女性が担ぐという決まりになっており、重さは男性の神輿の方が重い。警察動員のもとで通行止めを行い、少しずつ休憩を挟みながら進んで行く。神社出発、神社到着で神輿が行われ、最後に20時ごろに神社に神輿が到着した時点で町内の人々は神社に集まり、ラストの獅子舞が始まる。カヤの中に入るのは3人で、太鼓が2人、棒振りが存在しないというのが舞いの特徴である。ラストの曲目では猛スピードで獅子舞が踊り狂い、大歓声のもとで迫力ある獅子舞が展開される。

 

2019年9月16日

三木町の獅子舞

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 三木町は15時からの神社への奉納獅子舞を見に行った。神聖な神社の前で自然に囲まれた場所で荘厳な雰囲気の中、静かに見守るというスタイルの獅子舞だった。衣装は柔らかく華やかな雰囲気だ。奉納獅子舞は15〜30分程度と短く、一瞬を見逃しまいと写真を撮影した。踊りの内容で最も面白かったのは、最後に天狗が登場したことだ。棒振りの人が最後の曲目のみ天狗の仮面をつけて踊るとさらに荘厳な雰囲気がさらに際立つような感覚だった。若い人に華を持たせるためか、基本的に踊り手は子供がやり、大人は見守るという役回りだった。

 

2019年9月21日~23日

柴山町の獅子舞

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 柴山町はかなり青年団と近い目線で取材させてもらえた。獅子舞のカヤの中に入れさせてもらって、一緒に舞うなどして、獅子舞を踊る感覚を掴んだ。獅子舞の最後尾の尻尾を振る役割を担い、リズムに合わせて上下にカヤを動かすというとても簡単な動作を経験させていただいた。

 この町の獅子舞には、しゃんしゃんとコンコンという2種類の踊りがある。それぞれ、リズムや内容が異なる。基本はお金を渡さなかった場合小学生が舞う子供獅子で、

お酒やお金などを渡すと青年団OBが舞うという形態をとる。基本地区内のすべての家を回るので、合計150軒くらいまわることになる。また、この町では獅子舞の踊りに女性が参加しておらず、男性らしい躍動感あふれる舞が見られた。

 この町特有の獅子舞の内容としては、リアカーを引いているという特徴がある。リヤカーの前には「祭り」、後ろには「柴山」という文字が書かれ、太鼓や飲み物を保管している。車や軽トラを利用する地区が多いが、柴山では祭り前々日、前日、祭りの日の2日と計4日間お酒を飲む上に、祭りの日は朝から晩までお酒を飲むのが恒例となっており、飲酒運転を避ける工夫となっている。

 あとは、他の町に比べると「獅子の鼻が高い」という特徴がある。外国人や天狗を連想させるような鼻を持つ獅子頭を使用しており、平成4年に石川県小松市上本折町の彫刻家・北昭造氏に製作を依頼したとのことである。

 また、祭りの際には親戚たちがみな集まって飲んでいるのがとても印象的だった。すき焼き鍋を中心に、唐揚げ、スパゲッティなど美味しそうな食べ物がたくさん並んだ。

 太鼓のバチは他の地区に比べてかなり太くて、桐の木を使っているため丈夫な印象を受けた。

 祭りの当日は、1日目は朝の準備があり4時半集合とかなり早い。次の日は7時ごろと少しゆるいが、15時からカラオケ大会があり、20時ごろから盆踊りも始まり、夜は倒れるまで飲み明かして楽しい夜を過ごす。

 周辺の新保町などの青年団の方々とも繋がれたので、ぜひ来年取材したい。

 

 

2019年9月22日

加賀市中央図書館での調査

 加賀市149町のうちで119地区で獅子舞が行われてきた(現在の山中は資料が作られた当時江沼郡だったので含まない)。獅子舞が行われていない30町は主に旧大聖寺町の小集落である。現在は96地区で行われている。神社のある集落を中心に実施されているという特徴がある。

 加賀市の獅子舞を大別すると、加賀藩伝統の棒振りを伴う獅子(45%)、カヤの中の3~5人が2人立ちの太鼓に合わせて舞うカンカラ獅子(43%)とに大別される。分類しにくい12%もどちらかというとカンカラ獅子に近い。棒振り獅子の分類は曲の多少で分類でき、とりわけ山代温泉町は多数のハヤシを入れる特徴がある。

 獅子舞の季節について。大聖寺21町内(13町が休止)の祭りと、瀬越町の3年に1度の大祭のみ春に行い、他は秋に行うのが主流である。

 獅子頭について。加賀市獅子頭は70%が雌獅子で、雄獅子は17%(そのうち87%が朱色)となっている。制作年代と作者が明らかなものが全体の52%の62個で、そのうち31個が富山県井波のもの、12個が金沢のもの、8個が大聖寺のもの、4個が松任の浅野太鼓のものとなっている。このほか、例外的に東京、京都、三国、鶴来のものが1個ずつある。

 獅子の頭持ちについて。頭持ちは基本的にカヤの中にいるが、外にいるのが山代温泉町と二子塚町だけである。また、獅子の胴体について。カヤの中に入る人数は頭持ちを含めて2~3人というのが全体の49%、4~5人が39%となっている。一番多くても10人までで、胴竹を張り、ハヤシ方が中に入るのが田尻町山代温泉町のみとなっている。

 ハヤシについて。カンカラ系統で2人打ちが全体の60%を占める。棒振りが伴う場合は、1人打ちで笛が伴うのが36%、残りの4%がシメ太鼓で多数の太鼓と笛と鉦(カネ)が入る。

 獅子舞の流れについて。獅子の組み立ては保管されている神社や公民館で行い、次に神社で奉納舞をする。次に区長・区三役の家から舞い始め、町内を一巡し、最後に神社で舞い納める。

 

<以下、獅子舞が実施された119地区>

 

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 <獅子舞の演目一覧>

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(参考文献:石川県教育委員会「石川県の獅子舞 獅子舞緊急調査報告書」/昭和61年3月)